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『田中そば店 本店』の引力。懐かしくて新しい、極上の一杯。

日常に潜む「本物」との出会いは、いつも突然です。足立区保塚町、一見すると穏やかな住宅街に、ラーメン好きたちの心を掴んで離さない名店があります。それが『田中そば店 本店』。

懐かしいのに、どこか新しい。その一杯が持つ不思議な魅力と、人々が惹きつけられる理由を探ってみました。

お店の基本情報

なぜ、この一杯に惹かれるのか

このお店のルーツは、日本三大ラーメンの一つにも数えられる「喜多方らーめん」。しかし、単なる模倣ではありません。そこには、店主の確かな哲学と技術が息づいています。

スープは豚骨を濁らせずに炊き上げ、クリアな旨味を抽出。そこに煮干しの風味豊かな香りが重なります。この「動物系」と「魚介系」の絶妙なバランスが、飽きのこない深い味わいの土台となっているのです。

そして、このお店の個性を決定づけるのが「背脂」の存在。「あっさり」を選べば、スープ本来の繊細な旨味をストレートに楽しめますし、「こってり」を選べば、良質な背脂の甘みがスープに溶け出し、コクとまろやかさを格段に引き上げます。どちらを選んでも正解、という懐の深さも魅力です。

このクオリティでありながら、価格は非常に良心的。日々の暮らしの中で、ふと「あの味が食べたい」と思ったときに、気軽に足を運べる。それもまた、多くの人に愛される大きな理由でしょう。

シズル感あふれる、おすすめのメニュー

メニューは少数精鋭。どれもが主役級ですが、特におすすめしたいのは以下の三品です。

  • 中華そば(こってり)丼が運ばれてきた瞬間、湯気と共に立ち上る煮干しと背脂の甘い香り。黄金色に輝くスープに浮かぶのは、雪のように美しい背脂の粒です。まずはスープを一口。豚骨のしっかりとした土台に、背脂のコクが加わり、後から煮干しがふわりと香ります。そして、主役の麺。喜多方らーめんを彷彿とさせる、手もみ風の平打ち縮れ麺。この麺が、スープと背脂を余すところなく絡め取り、口の中へと運んでくれます。不揃いに見える麺の「縮れ」こそが、最高の食感を生み出す秘密。トッピングのチャーシューは、箸で持つと崩れてしまいそうなほど柔らかく煮込まれたバラ肉。脂の甘みと肉の旨味が、この一杯の完成度をさらに高めています。
  • 肉そば「中華そば」のチャーシューを、さらに贅沢に増量したのが「肉そば」。丼の表面は、美しい花びらのようにチャーシューで埋め尽くされます。見た目のインパクトもさることながら、その味わいは格別。スープの熱でトロリと溶け出した脂と、赤身の旨味がスープにさらなる深みを与えます。麺をすする合間にチャーシューを頬張る、その繰り返しはまさに至福のひとときです。
  • 山形辛味噌らーめんもし、少し刺激的な味を求めているなら、「山形辛味噌らーめん」も外せません。基本のスープに、特製の辛味噌が別皿で添えられています(店舗によっては中央にトッピングされていることも)。まずはそのままのスープを味わい、途中で辛味噌を溶かしていく「味変」の楽しさがあります。ピリリとした唐辛子の辛さと味噌の芳醇なコクが、豚骨煮干しスープと出会うことで、まったく新しい味わいへと昇華します。縮れ麺との相性も抜群で、食べ進めるごとに食欲が刺激されます。

まとめ

『田中そば店 本店』は、ラーメンという日常食の中に、確かな技術とこだわりを詰め込んだお店でした。

喜多方らーめんへの敬意を払いながらも、独自の解釈で「田中そば」というジャンルを確立している。その一杯は、ラーメンを深く愛する探求心の強い人から、家族連れで美味しいものを食べたいという人まで、幅広く受け入れてくれます。

本質的な美味しさとは、奇をてらうことではなく、素材と向き合い、丁寧に仕事を積み重ねた先にある。そんな当たり前だけれど大切なことを、この一杯が静かに教えてくれるようでした。

一度訪れれば、きっとその確かな引力に気づくはずです。

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